【第二章】フリーランスエンジニアのリアル

2021/08/08

資金ショート発生

まずいことに気が付いたのは、スタートして半月ほど経った頃でしょうか。

それまで毎月の給料は自動振込みされており、全て奥さんの管理下にありました。いわゆる小遣い方式だったわけですが、独立後は主客逆転することになりました。

奥さんから見れば、それまで振り込まれていた約20万円(19万+残業代少々だったので大体このくらい)が減ると困るのですが、逆に言えば、毎月その金額があれば取り敢えずはやっていけるので、金銭的な不安は解消するわけです。さすがに現状維持では申し訳ないので、事前の約束として「生活費として今までより数万は多く渡せる(ボーナスはないけれど、年間で20万円ほどの収入増になる)」と伝えていました。

ところが通帳を見てみると、渡す現金がないのです。

「え!…なんでこんなことに!?」

気づくのが遅かったのですが、エージェント会社からの支払いサイト(支払いまでの猶予期間のこと)が原因でした。それほど気にしていなかったのですが、エージェント会社からの条件は「月末締め、40日後払い」と言われていたのです。

今回の状況を時系列で書くとこんな感じになります。

11月15日この日付で退社
11月16日フリーランスとしての準備開始。開業届を提出したり、名刺作ったり。
12月 1日フリーエンジニアとして働き始める。この日から開発現場に通い始める。
12月16日前職の最後の給料が振り込まれる
12月31日フリーエンジニアとして1ヶ月働き終わった締め日
1月16日今までなら給料が振り込まれていた日。退職したので当然今までの給料はもう入らない。しかもフリーになった1ヶ月目のお金はまだ支払われない。ここで資金ショートが発生。
1月31日フリーエンジニアとして活動開始後、2ヶ月経ちました。
2月10日初めての入金確認、ホッと胸をなで下ろす…

 

と、いきなりの資金ショート発生です。手元に現金の無い状態で迎える年末は、かなり心細いものでしたょ…。現金の大切さを痛感する、良い経験になった、と前向きに捉えておくことにします。

※お恥ずかしい話ですが、このときの不足分は親に借金…。その後2ヶ月かけて返済しました。

初めての入金

待ちわびた2月10日。何しろ初めての入金予定日です。まさかエージェント会社がトンズラして振り込まれなかったりしたらどうしよう…。そんな不安が頭をよぎりつつ、銀行ATMへ。

おお、ちゃんと入金されてる!いやー、良かった良かった。ともかく予定通りに支払いが行われて、ようやく安心できました。

コラム 裏技:サラリーマンのまま個人事業主として開業する

もっと早く知っておけば、と思うことのひとつがコレ。実はサラリーマンのままでも、個人事業主として開業できるんですよね。

「どちらかしかダメ」なんていう法律がある訳でもないし、開業届けを出したからといって、勤め先に連絡が行くこともありません。

ばれるとすれば、確定申告で住民税を特別徴収(給与から天引き)のままにした場合ぐらいでしょうか。(詳しくは「副業 普通徴収 特別徴収」で検索してみて下さい。)

なんの為にそんなコトをするかと言うと、会社からの給与と、副業での収入(というより損失)を損益通算するためです。

例えば、副業でネットショップをやる場合なんかには、おそらく暫くの期間は売り上げは殆どないかと思います。でもPC用意したり、レンタルサーバーの費用を払ったりと、投資が必要になるわけで、当然赤字になります。

一方、会社からの給与は当然プラスなので、副業の方で発生したマイナスを損益通算して、確定申告時に必要以上に支払った税金を返していただく、と言うこと。

ざっくりとしたイメージとしては、投資した金額の約10%が戻ってくる、という感じでしょうか。PCその他もろもろで30万使った、となれば、約3万円が戻ってくることになります。

この金額を、どう捉えるか…。なにしろ、確定申告についてはこのあとにも詳しい状況を書いているのですが、やはり面倒ではあります。面倒だけれど、どうせお金については取り組むことになるわけなので、「どうせなら前向きに取り組もう」と思える方には、手間をかける価値はあるかもしれません。

とは言え、ダークサイドに陥らないようご注意を。事業に関係ないものまで費用として計上し、節税ならぬ脱税と判定されればあとから困ったことになります。例えば5年後、事業が上手くいってウハウハになったところに税務調査が入れば、5年遡って調査されてしまいます。5年先の自分が「あーあ、やめときゃ良かった…」なんて嘆かないように、誠実な行動を心がけて下さい。

 突然の契約打ち切り

負荷もそれほど高くなく、だいたい定時+1時間前後で退社の日々。順調に進んでいた初案件ですが、ある日、マネージャーに呼ばれます。

「ちょっと会議室に来てもらえます?」

呼ばれたのは自分だけのようです。なんだろう?と思って会議室に入ると、申し訳なさそうな態度でマネージャーが話し出します。

「実はね…。今のプロジェクト、お客さんから予算が取れなかったんですよ…。申し訳ないけど、外注さん全員、今月末までで契約終了になります。急な話で本当に申し訳ない。」

そうですか、としか返事のしようも無く、面談はすぐに終了。自席に戻って作業を続けます。

その日の午後、早速エージェントさんから電話がかかってきました。もちろん話は先に伝わっていて、すでに次の面接をセッティングしたとのこと。月末まで2週間程度しかないので、早速その日に面接だそうで。

周りの状況は変化していくのだけれど、自分だけが、なんだかよく分からないまま取り残されている感じです。ともかく言われるがままに面接へ。少し早めに退社して、面接会場に向かいます。

今度はわりと小さな会社のようで、社長さん直々の面談に臨みます。懸念していた、月に2日ほど平日にお休みを頂く、という条件も、「それくらいなら大丈夫でしょう」とOKをいただけました。

コラム 面接、苦手ですか?

案件の面談は、基本的にはエージェントさんがすべてお膳立てしてくれます。当日の面談の場にも同席してくれますし、多くの場合は、すでに先方とも面識があって、親しげに会話が進みます。会話についても、営業さんと先方の担当者が話しているのを聞いているのがほとんど。経験したプロジェクトや言語の話など、聞かれたことに答えるだけ、という感じで進んでいきます。

平日に2日ほど休む、という歓迎されない条件についても、面談終わりがけのうまいタイミングでエージェントさんがきちんと切り出してくれました。

この辺りは、事前にエージェントの担当さんとコミュニケーションしておく必要があります。対等な立場であるはずなので、希望はきちんと伝えるべきですし、威圧的な態度を取られたり、この人とは合わないと思うようであれば、他のエージェントを当たった方が早いかと思います。

ただの下請け

しばらくしてから、「先日の面談、OKいただきました。決まりました。」と連絡があり、次の案件が確定しました。そのときは「ふーん、まぁ、無事決まってよかったな」と大した感慨も無かったんですが、あとから考えてみると、これってかなり怖い状況だったんですよね。フリーエンジニアの立場って、いわゆる「下請け」と同じで弱いんです。

仮にITバブルがはじけた時やリーマンショックのような時だったら、なかなか次が決まらず、何度も面接にトライする、なんていうことになっていたのかもしれません。

結局のところ、仕事を取ってくるのはエージェントさんなわけで、フリーエンジニアって完全に下請けなのです。親鳥がエサを運んでくれないと生きていけない…っていうくらい、弱い立場なんです。世の中の流れが変わって、景況が悪くなればエサも減ってしまうわけで、もろに景気の影響を受けます。

かと言って、クラウドソーシングで「使われる側」にまわってしまうと、無茶な仕様のまま低報酬でこき使われる…という事態になりかねません。結局のところ、ビジネスにおいて一番立場が強いのは「仕事を引っ張ってきた人」なんです。そこを理解出来ていないと、独立とは名ばかりの、安く便利に使われる作業者になってしまいます。

では、どうすれば下請けという弱い立場から脱出できるか?と言うと、方法は二つあるかと思います。

営業・マーケティングに強くなる

営業と聞くと、ほとんどのSEの方には縁がない感覚があるかと思いますし、「買って下さい」なんていう売り込みは絶対やりたくない!という方が多いかと思います。ですが、きちんとマーケティングを行って、興味のある人が「あなたに●●を頼みたい」と向こうからやってくる仕組みを作ることが出来れば、例え人付き合いが下手な人であっても、仕事が直接取れるようになります。このあたりのお話に興味がある方は、本屋さんのビジネス書コーナーを見てみると良いかと思います。

人が集まるサービスを作る

人が集まるところには、お金が付いてきます。わかりやすい例で言えば、パワーブロガーのサイトでしょうか。人が集まる場をつくれば、そこに広告を出したい企業が現れ、広告費が収入として入ります。多くの場合はAdSense等の仕組みを使って広告収入を得る訳ですが、属性の近い企業に「広告枠あります、いかがですか?」と営業をかけてもいいわけです。

どちらにしても、「自分には知識やスキルがあるから大丈夫」と油断せず、ビジネスの視点で見れば「自分一人で価値を金銭に変換する」ことが出来ない限り、弱い立場であると認識しておく必要があります。

コラム 士農工商のおはなし

僕の世代は、社会科で「士農工商」という言葉を学びました。

江戸時代の職業序列として、お侍さんが一番偉い、という上下関係を指した言葉です。(ただし、実際にはそのような意味で使われていなかったようで、今は教科書にも掲載されていないそうです。)

この言葉を習った時、単純に立場の強い順に並んでいるのだと理解していましたが、実のところ「一人で生きていける、本当の意味での強さ」の逆順になっているんですよね。

士は、現在の公務員にあたり、仮に50歳で職を失ったとしたら、かなり辛そうです。国があって初めて安泰な立場となります。

農は、ほとんどの農家が直接取引はせず、流通販売は農協に大きく依存しています。国からの補助もあり、手厚い庇護のもとにあると言えます。

工は、職人さん。エンジニアもここに入ります。手に職があるのでつぶしがききますが、組織から外れてしまうと辛い状況になります。

商は、自営業にあたります。「安く仕入れて高く売る」というイメージもあって低く見られがちですが、近江商人の「三方良し」のように、世の中の役に立とうとする商人も大勢居る訳で、その人の考え方次第です。仮に今扱っている商品が無くなっても、価値を直接お金に換えるすべを持っているので、一人で生きられるという点では最も強いと言えます。